「面白い!」ということについて考える

駆け出しの頃、「あんたがやりたいことはよくわかるんだけどさ、それって、何が面白いの?」「その研究って、どういう面白さがあるのか?」とよく言われた。

本当に、いろいろな人から言われた。

 

その頃は、「面白いって、なんやねん!!」「ていうか、俺ってどんだけおもろないねん!!」などと思ったものだけれど、そんな時に社会学者のDavis Murrayの「That’s interesting」 という論文を読んで、なるほどと思った記憶がある。

 

Davis, M. S. (1971) That’s interesting: Toward a phenomenology of sociology and a sociology of phenomenology, Philosophy of Science, 1: 309-344. 

 

・・・面白い理論とか研究には12のタイプがあるという指摘なのだけれど、今改めて読んでも、この論文自体が非常に面白く、いろんな思考を活性化させてくれる、おまけに言うと、研究以外のいろんなことにも応用できそうだ。

 

そこそこ硬派な論文なので、僕なりの咀嚼して紹介しておきたいと思う。

「面白い!」を追い求める、すべての人に!!

 

1.普遍性generalization

ある部分にしか当てはまらないと思っていたものが実は普遍的だったり、どこにも当てはまると思われたいたものが実は局所的な現象だったりすることが分かると、面白いというのが1つ目。

最高の能率だと思われていた「官僚制組織」が、実は、ある環境のもとでは非効率になるという発見は面白く、非効率の権化とされてきた官僚制組織がある条件のもとではイノベーションの原因になるという発見は、もっと面白い。

 

2.組織性organization

無秩序だと思われていたもののなかに秩序を見出したり、秩序の中に無秩序を見出したとき、僕たちはそれを「面白い!」と思う。

まったく無秩序に飛行しているように見える「渡り鳥の群れ」の中にいる、一羽一羽の鳥の行動メカニズムは実は極めてシンプルなものでしかない・・・なんていう発見がこれに当たるだろうか。

 

3.因果causation

「強い組織や強い職場は強い個人によって支えられているだけでなく、強い組織や職場からこそ強い個人が生まれうる」・・・・・というように、原因だと思っていたものが実は結果だったり、結果だと思っていたものが実は原因だったりすると、面白い!

 

4.反対性opposition 

類似していると思われていたもの同士が、実は正反対の性質を持っていたり、その逆であったりするという発見も、わくわくする。

テレビとラジオは本質的に同類だと考えられていたが、マーシャル・マクルーハンはその見方をひっくり返し、それらを対極におき、世界を驚かせてみせた。

また政治学の世界では、極右と極左は、実は「自己の真理に対する絶対的信仰」という意味で同根だという指摘がある。

こういうのは、しびれるくらい面白い。

 

5.共変動co-variation

2つの要因の間の関係は「同方向」(つまり正の共変関係)だと思われていたのに、実は「逆方向」(つまり負の共変関係)だったり、非線形(U字や逆U字)だったりするのも、面白い。

「不確実性」が高くなるほど、組織は今までとは違う「新しいこと」を仕掛けていくようになると思いきや、高度の「不確実性」のもとではむしろ組織に「慣性のロック」がかかって、硬直的になるなんていう指摘が、これに当たる。

 

6.共存性co-existence

「愛と憎しみは表裏一体」とか「死は生の一部として存在する」といったように、共存しないと思われていたものが実は共存しうるという発見、あるいは逆に、「自動車メーカーとサプライヤー」のように、共存すると思われていたものが、相容れない場合があるなどという発見。

控えめに言っても、超面白い。

 

7.相関関係co-relation

相互に独立していると思われていたもの同士の間に関係があったり、相互に依存していると思われていたもの同士の間に実は関係がなかったり・・・といった発見。

「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、全く無関係だと思われていた「強風」と「桶屋の繁盛」の間に、実は因果関係があったという発見なんかは、これ。

 

8.機能性function

ある目的を達成するために、全く機能していないと思われたことは、実は実に重要な機能を果たしていた・・・・というようなこと。

僕の故郷には「小田原評定」という言葉があって、これは普通、「長くてだるくて無駄な会議」という意味なのだけれど、実は「長くてだるくて無駄な会議」には「メンバー間で多量の情報交換が起こり、知識の共有を重層的にする」という意図せざる機能もある。

物事には、「意図せざる結果」ってのがあるという話。

 

9.抽象abstraction

個別的な問題だと思われていたものが、実は社会的全体的な問題であったり、その逆であったりということ。

その昔、「自殺」というのは極めて個人的な(つまり、異常な心理を持った人が、その異常者ゆえに犯す行為であるというような)問題とされていたけれど、社会学者エーミール・デュルケームは、自殺が極めて「社会的な」問題であることを突き止めて、議論を巻き起こした。

 

10.複合composition

単一と思われていたものが、実は複数の異質なものから構成されていたり、異質なものの集まりだと思っていたら、実は同じものの集合だったり・・・・みたいなのも面白い。

「会社の文化」という言葉を聞くと、1つの会社の中に1つの文化があまねく共有されているかのようなイメージを喚起するけれど、実は、会社の文化なんてものは、部門ごと、年代ごと、事業部ごとにバラバラで、それをまとめるのに一苦労・・・・なんてことはよくある。

 

11.評価evaluation

悪者と思っていたが、実は良いものだったり、良いと思いきや、実は悪者だったりというように、あるものへの評価をひっくり返るような議論も、面白い。

「喫煙はストレス解消効果があるから、結局寿命の長期化に貢献する」とか、「悪魔には悪魔の論理がある」なんていうのが、これに当たる。・・・・そして最後は、

 

12.安定性stabilization

不安定なものの中に安定性を、安定的なものの中に不安定を見出したとき、僕らは面白さを感じる。

「組織」というものは、個人よりもはるかに安定的で強いものだと思いがちだけれども、バーナードはそれが①共通目標②コミュニケーション③貢献意欲という3つの条件が揃わないと成立しないこと、その意味で僕らが思っている以上に不安定な存在であると指摘した。

その後、「組織の寿命は35年だ」(人間は80年も生きるのに)なんていう説も飛び出して、議論を呼んだ。

 

さてみなさんは最近、「面白い!」ものに出会っているでしょうか??

みなさんは最近、「面白い!」ことを考えているでしょうか??