僕たちチーム中身長(岡嶋、奥山、伊藤)は首都大との合同ゼミに向け「仕事生活におけるやりたいことの諸項目と主観的幸福度の関係性について」というテーマを設定し調査・研究を行いました。ここではその研究結果と考察を中心にご紹介させていただきます。
近年、価値観の多様化により、就業意識に関しても「やりたいことができる」というような従来の価値観とは異なった要素が重視されています。しかし、「やりたいこと」と一言で言っても、人によって①それ自体がさまざまである(Jリーガとしてプレイしたい、経営者として社会に貢献したい、など)し、それらが②どのように構成されているか(3年後には実現したい、実現するためにはどの資格が必要か分かる、など)も人によってさまざまであると思います。
また、物質的には豊かである日本を主観的幸福度という観点からみたとき、先進国の中では最下位、世界157ヶ国中においても53位と低い水準であることが報告されています。
そこで僕たちは②のやりたいことの構成要素に着目し、それらが主観的幸福度にどのように影響を及ぼすのか(もしくは及ぼさないのか)を明らかにしたいと思いました。
上記のコンセプトを踏まえ、アンケート項目を「やりたいこと」「プロフィール」「主観的幸福度・職務満足度」の3つのブロックに分けて作成し、130名の社会人の方々にアンケート調査を実施したのち、定量的な統計分析を行いました。具体的には「やりたいこと」のブロックに
・明確さ
・難しさ
・道筋の理解度
・実行度合
・達成への意欲
の5つの構成要素を設けました。(実際の質問文や他2つのブロックの構成要素について知りたい方は、ページ下部の添付ファイルに載せておりますのでそちらをご覧ください。)
「やりたいこと」ブロックにおいては<明確さ×難しさ><道筋の理解度×難しさ><実行度合×難しさ>という三つの複合要素が幸福度に影響を及ぼすということが分かりました。具体的には
<明確さ×難しさ>
やりたいことの難易度が高い場合においては、それが明確であればあるほど幸福度は上がる。逆に、やりたいことの難易度が低い場合においては、それが明確であればあるほど幸福度は下がる。
考察:Locke と Lathin (1984) によれば、①難易度が高く②具体的で明確に設定された目標は人々のモチベーションを高めるということが分かっており、それが幸福度にも当てはまるのではないかと考えました。
<道筋の理解度×難しさ>
やりたいことの難易度が高い場合においては、達成するまでの道筋が理解できていればいるほど幸福度は上がる。逆に、やりたいことの難易度が低い場合においては、達成するまでの道筋が理解できていればいるほど幸福度は下がる。
考察:例えば経営者が、現状を大きく上回る営業利益目標を設定したとして、それを現実的に達成できるような詳細な事業計画を立てることができる、というケースが想像できます。達成感や今後の展望への期待感などが生じることで幸福度が高まるのではないかと考えました。
<実行度合×難しさ>
やりたいことの難易度が高い場合においては、それに向かって行動を起こしていればいるほど幸福度の上がり方は急になる。逆に、やりたいことの難易度が低い場合においては、それに向かって行動を起こしていても幸福度の上がり方は緩やかになる。
考察:例年通りの営業利益を確保するという目標に向かって行動を起こすより、例年を大きく上回る営業利益を確保するというより難易度の高い目標に向かって行動を起こすほうが、充実感や自己成長感をより感じることができ、結果として幸福度の上がり方も急になるのではないかと考えました。
「プロフィール」ブロックにおいては<趣味><人間関係>という要素が幸福度に影響を及ぼすということが分かりました。具体的には
<趣味>
趣味が充実していればいるほど、幸福度は上がる。
<人間関係>
人間関係が良好な人は幸福度も高い。
今回の研究結果は、すでに考察で述べた目標設定理論を、拡張するような役割を果たしうるのではないかと考えました。目標設定理論は結果の部分にモチベーションの高さが設定されているため、理論の適用範囲はそれに限定されていましたが、その結果の部分にモチベーションや職務満足度を内包するような主観的幸福度を設定することで、目標設定理論の原因の部分にあたる①明確さ②難しさという要素に加え、③道筋の理解度や④実行度合という新しい要素を組み込むことの可能性を見つけることができたからです。以上の内容をまとめたものが下の図です。
本研究から目標設定理論の拡張の可能性を提示することはできました。しかし、今回はアンケート調査においてモチベーションの項目を設けてはおらず、①主観的幸福度と職務満足度には中程度の正の相関があったことと、②境 (1981)がいうように、職務満足は間接的にモチベーションを高める効果をもつ、ということをもとに三段論法的推論を行っているため、考察の信頼性に疑問が残るということがいえます。モチベーションに関しても直接調査を行い、その信頼性を高めていくことが今後の課題といえます。
最後に、今回のアンケート調査に協力していただいた皆様に感謝いたします。
本当にありがとうございました。
文責:奥山 新斗